八十三茶屋

とりとめのない文章集

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6.5』感想

通算11巻目にしてナンバリングは6.5,時系列的には6巻後と9巻直後のエピソードを収録した『俺ガイル』6.5巻です。


やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6.5ドラマCD付き限定特装版 (ガガガ文庫)
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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6.5 (ガガガ文庫)
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以下,ネタバレを含む感想です。



体育祭編

 もともとアニメBDの特典小説であり,アニメ1期13話の裏話という位置づけの体育祭編。

 BDは1巻だけ購入したので「6.25巻」だけは読んでいましたが,アニメ本編の出来がいまいちだと思い,2巻以降の購入は見合わせていました。アニメディスクをほしいとは思っていない以上,小説1冊分に1万円以上出すことになるわけで,それはさすがに……と思ったからです。もしかしたら,文庫に再録されるかも,という淡い期待もありました。
そういうことなので,再録は嬉しかったです(が,そもそもの問題として,特典商法に対して疑問を感じなくもない。独禁法違反の抱き合わせ販売にあたるんじゃ?)。


 愚痴っても仕方がないので,内容の話に移ります。

 まず何といっても,本編最高傑作とも評され絶妙な読後感を醸成する6巻と,最終盤を除いては穏やかな雰囲気の中で話が進む7巻の間のエピソードということもあって,終始,八幡・雪乃・結衣3人の関係が穏やかな状態で話が進むところが特徴的です。
 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』というシリーズ全体の主題は,人の関係性,本編でいうところの「本物」の関係,そして,その関係をめぐる感情と理性の相克にあると私は考えています。このシリーズを貫く主題の中に6.5巻・体育祭編を位置づけるとするならば,①相模南に対するフォロー,②「本物」のヒント,③他人を理解することの困難さの確認=6巻の延長戦,となるでしょう。
 加えて,「ぼーなすとらっく!」も含めた6.5巻全体としてみると,第3クウォーターにあたる7〜9巻を経た3人の成長が見て取れる,そんな構成にもなっているわけです。

ぼーなすとらっく!

 番外編である「ぼーなすとらっく!」も,今回で3回目。八幡もマンネリ化疑惑を指摘するほどですが,今回もおもしろかったです。本編で心情の機微を適格に表現している一方で,ネタの詰まった文章も書けるという点に渡航の才能を感じさせられます。新シリーズも楽しみですね。

 全体としては中身のない会話が多い「ぼーなすとらっく!」ですが,本編にも関わる重要な場面も散見されたので,それらについて触れたいと思います。

結衣と雪乃の誕生日プレゼントを買いに行く約束をする場面

 一つ目は,結衣と雪乃の誕生日プレゼントを買いに行く約束をする場面。

「あたしの誕生日のときってさ,プレゼント,ゆきのんと買いに行った,んだよね」
「まぁな,小町も一緒だったけど」
「ふ,ふーん」
 由比ヶ浜は気のない返事をすると,(中略)
「じゃ,あたしと,つ,つきあって,ほしいな……。その,買い物……」(429頁)

 なぜ倒置法なのか,なぜ告白っぽい表現をするのかと突っ込みたいところですが,お約束(3巻97頁参照)ということでとりあえず置いとくことにして,この場面は,結衣が,自分が八幡にアプローチすることを,雪乃も含めた3人の関係の中でどう捉えているのだろうかという問題への関心を喚起します。
 4巻では,陽乃の結衣への発言「あ,でも,比企谷くんに手を出しちゃだめだよ。それは雪乃ちゃんのだから」(4巻285頁)に対して,結衣は何も応じておらず,その後もこのテーマに関する描写はありませんでした。ここでの描写から,結衣の考えを断言することは難しいですが,八幡が雪乃のことをどう思っているかを気にする様子は見て取れます。
 この点で気になるのが,お泊り会@ゆきのんちですね。ディスティニーのときといい,今回のクリスマスパーティーの後といい,前後の事情からして八幡のことが話題に上らないはずがないでしょう。邪推にしかならないので深入りはしませんが,八幡も含めて,三人がそれぞれの関係をもう一人との関係との中でどのように捉えているのかは,今後の展開で重要なファクターとなってくるのではないかと思います。
 そうそう,陽乃といえば,ここ2作続けて出番がありませんね。第4クウォーター・雪ノ下家編では必然出番も増えると思いますし,奉仕部の三人(のみならず,葉山,場合によっては平塚先生)に対してはジョーカー的存在なだけに,その行動からは目を離せません。

雪乃と結衣にクリスマスプレゼントを渡す場面

 二つ目は,雪乃と結衣にクリスマスプレゼントを渡す場面。もちろん,ショッピングモールでのプレゼント選びは,形だけはクリスマスパーティーのプレゼント交換用のプレゼントを選ぶということになっていますが,その実は,湯呑みのお返しとして雪乃と結衣に贈るためのプレゼント選びなのです(しかし,本編ではおなじみの手法を「ぼーなすとらっく!」にも適用してくるとは,油断ならないですね)。

 納得していると,小町はなおも続ける。
「身に着ける系もなんかちょっと重いよねー。アクセサリーとか高いやつとか―」
 (中略)
「身に着けるものは重い,ね。まぁ,そりゃそうだよなぁ……」
重いもの,なんて贈られる側だって困るわな。(424-425頁)


 けれど,伝わらない気持ちや届かない想いにどれだけの価値があるだろうか。それに,気持ちがあればいい,というものでもない気がする。(427頁)


由比ヶ浜さんがブルーで,私が,ピンク?……なんだか逆のような気がするのだけれど」
「いや,それでいい,と俺は思うんだが……」
 どうして自分がそういうふうにしたのか,なんてとてもじゃないが説明できない。聞かれたって困る。けれど,きっとこれが正しいのだろうと,自分なりに考えた,俺だけの結論だ。そこに理解はなくてもいい。贈り物とはたぶんそういうものなのだと思う。(474頁)


 小町からはアクセサリーは重いと言われた。たしかにアクセサリーは重いと思った。それでもシュシュを贈ることにした。ここに,9巻での八幡の成長を見ることができるでしょう。
 8巻までの八幡だったら,重いから・自分がもらったら困るからやめとこう,と考えたはずです。でも,相手の負担を気にしていては・踏み込むことを恐れていては本物は手に入らないことに気付いた。
 八幡は,ただ願うだけでは意味がないこと,願い・気持ち・想いは伝えなければ叶わないこと,伝えるためには相手に負担を強いる重たい手段が必要なことを理解したうえで,相手に負担を強いる覚悟をしました。上で引用したシーンは八幡目線で第3クウォーターの主題を確認する場面なのです。

 シュシュの色にも八幡の思いが込められていそうです。
 問題は,どんな思いなのか,ということです。これについては,雪乃と結衣のイメージカラーをクロスさせることで,結衣と雪乃の関係が八幡にとっても大切なんだということを示そうとした,と読むのが自然でしょう。
 地の文を素直に読む限り,どんな意味があるかについて八幡自身は理解していないことになりそうです。しかし,地の文は八幡の一人称であり,正面から認めるのが恥ずかしいから気づかないふりをしているとも考えられる。
 また,メタ的にみるなら,9巻での「本物が欲しい」という八幡の依頼が,雪乃と結衣ではなく雪乃に対してのものだったとみる可能性(形式上はそのような理解も不可能ではなかったのではないかと思います)を封じたともいえるでしょう。

 ところで,贈り物がシュシュであることの意味についても考えてみようと思ったのですが,最近のトレンドのおかげで,「シュシュって,それパンt……いえ,何でもありません……」状態なので,断念しました。


 ただ,「アクセサリーだけど,意味的にも価格的にも重すぎないもの」という考量の結果なんじゃないかと思います。

ドラマCD

 特装版を購入したので活字を読んだ後にドラマCDも聞きました。声がつくと,活字とは別のおもしろさがあるな,と声優の力に感心した次第です。

 こと小町については,可愛さとあざとさがマシマシ状態で,悠木さんの演技力に感服。
 材木座や戸部はドラマの中のほうがよりイキイキとしていて,立ち位置としては完全に賑やかしでストーリー上いてもいなくても変わらないように思えるのに,きっちり存在感を示していました。

俺ガイルと『一週間フレンズ。

 6.5巻発売と同時期にアニメ最終回が放映されていた『一週間フレンズ。』。この作品を観ながら,俺ガイルと似たような主題を扱ってるな〜と思っていたのですが,なんと「ぼーなすとらっく!」にネタとして登場していました。

高校二年生の長谷祐樹は、普段から人と関わろうとせず、いつもひとりでいるクラスメイト、藤宮香織と友達になりたいと思い、彼女に話しかける。
だが、彼女は「私、友達の記憶…一週間で消えちゃうの…」とそれを拒む。
少年との思い出を失い続ける少女と、その思い出をひとつひとつ紡ぎあげていく少年―。
たくさんの“切なさ”と“ひたむきさ”が詰まった、珠玉のストーリー。『一週間フレンズ。』TVアニメ公式サイト | イントロダクション

 主人公の長谷くんは,頑なに他人との関わりを拒む藤宮さんに果敢に話しかけるうちに徐々に打ち解けあい,友達になります。一週間のリセットも乗り越えることができるようになり,夏休みも一緒に海に行ったりと楽しく過ごしていたのですが,2学期のはじめのとある出来事をきっかけに,その関係がおかしくなりはじめる。以前は無意識のうちに築いた距離感がわからなくなり,手探りでもう一度最適な距離感を見つけようとするのですが,これがなかなか難しく……。というのがあらすじ。
 長谷くんと藤宮さんがお互いの距離感について悩む様が,八幡と雪乃のそれにそっくりなんです。一度は手に入れた大切なもの,しかしそれを落としてしまう。目の前に落ちているそれは,足を踏み出し手を伸ばせば拾うことができる。でも,触れた瞬間壊れてしまうかもしれない,そう思うと,手を伸ばすことすら怖くなる。大切なものだからこそ,完全に失ってしまうぐらいなら,まだ残っている余熱で満足することを選んでしまう。

 あまり詳しく書くと『一週間フレンズ。』の感想になってしまうのでこれ以上は踏み込みませんが,『一週間フレンズ。』,とてもいい作品でした。機会があれば原作コミックも読んでみたいと思っています。(それにしても,この2作品同じアニメスタジオが制作しているのに,どうしてここまでアニメの出来が違うのでしょうか……。不思議でなりません)

いろはのこと

 実は,読み終えて真っ先に思ったのは,「いろはの出番がない!」ということでした。もちろん,いろはは7.5巻からの登場なので6.5巻・体育祭編に登場するはずがなく,BTのクリスマスパーティーも奉仕部の「打ち上げ」という口実なのでいろはの出番がないのは当然で,そのことはあらすじを読んだ段階で,読み始める前から予想していたことです。
 しかし,こうしていろはの出番がなかったことに物足りなさを感じるあたり,私の中でいろははもうヒロイン扱いになっているようです。前巻で大いに株を上げた一色いろは,第4クウォーターでも彼女の出番があることを祈りたいものです。むしろ10巻の表紙に期待するまであります。

おわりに

 しかし,八幡はそろそろ非リアのふりするのやめないと読者に恨み殺されかねませんね。
 クリスマスに同級生の女の子2人とパーティーするなんて,ただのリア充じゃないですか。もはやタイトルと内容が矛盾するまである。どうやら,タイトルを維持するためだけに彩加が登場している節すらあります。彩加がいなかったら「まちがっている」要素が皆無になってしまいかねない……。

 アニメ2期についての新たな情報はありませんでした。おそらく,冬または来年の春あたりに放送開始だろうとは思います。ひょっとすると2クールで原作と同時に完結ということもありえるのではないかと思っていましたが,わたりんは新作を準備中とのことなので,その可能性はあまり高くなさそうですね。