八十三茶屋

とりとめのない文章集

こうして一色いろはは再定位される − 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10.5』感想

通算13冊目,ナンバリングは10.5,アニメ2期の放送も始まった『俺ガイル』の10.5巻です。



以下,ネタバレを含む感想です。


いろはす100%

一色いろはが始めて登場したのは7.5巻ですが,すでに劇中での彼女の存在感はとても大きなものとなっています。
10.5巻は,そんないろはす三昧の一冊。

ついに一色いろはは表紙を飾る。

劇中で生徒会と奉仕部が作成したフリーペーパーの表紙がいろはでしたが,10.5巻の表紙もいろはでした。
10巻の感想で,「次巻こそはいろはを表紙に!」と期待を寄せておきましたが,願いが叶ってよかったです。

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連作風の短編集

「.5巻」ということもあって,全体的に内容は軽めでした。全編を通してほぼ「いつも通りのネタ+あざといいろはす」で構成されています。
そして,3つの短編が,「フリーペーパー作り」というテーマによってゆるくつながっています。

ただ,いつも通りのネタといっても,今期のアニメネタは少なかったように思います。アニメを見ている時間がないほど忙しいのか,それとも......。
とはいえ,思わずいろはすを『クズ金』のよはねすと重ねたくなる描写(24頁)がセルフオマージュになっていたり,いろはの中の人ネタ*1があったり,相変わらず八幡の独白はおもしろいです。でも,いろはが闇金をやっている......なんて展開だけはご免です。


いともたやすく,一色いろはは先輩をデートに誘い出す。

10.5巻の最大の盛り上がりどころはもちろん八幡・いろはのデートです。
いろはがとてもとても素晴らしいのですが,その素晴らしさを表現できるほどの文章力がないので,気になったところを少しだけ書き留めておきます。

いまだ一色いろはは先輩の連絡先を知らない。

八幡がいろはの連絡先を知らないというのは,見落としていたわけではないのですが,少し意外でした。とくに,後で述べる劇中でのいろはの役割,および,結衣は知っているけど雪乃は知らないという微妙な状況を踏まえると,今回どこかで連絡先を交換することになってもおかしくなかったように思います。
しかし,そのようなことはありませんでした。3章ではいろはが八幡の携帯を差し押さえていたにもかかわらず,です。

ただ,3章の最後で八幡の携帯で写真を撮っていますから,その後ひっそり八幡がいろはから教えられていたなんてことがあるのかもしれません(もっとも結衣が自分に写真を送るように頼んでいますからその可能性はとても低いですが)。あるいは,預かっている間にいろはすが勝手に,とか。そうなると,次巻は,いろはからのメールで幕を開けるという展開もありえるのでしょうか? いずれにせよ次巻以降にならないとはっきりしないですね。伏線なのか伏線ではないのかはっきりしないところがもどかしいですが,こういう「はっきりしないところ」がこのシリーズの魅力の一つでもあります。

何回か遊びに行ったら彼氏面していいそうです*2→からの......次があるみたいですよ*3→その心は......?

いろはさんは,「今日のところは10点」*4とかいうこともおっしゃっていますし,これはあざといと言わざるを得ません。他にもあざといところはたくさんありましたが,一番あざといと感じたのはこのくだりです。

「次回」が劇中で描かれることはあるのかないのか......。
もちろん,結衣との約束を果たすことが先だとは思いますが,完結後の後日録編でいろはちデート第二弾があったりするといいな,と妄想しています。

八幡にしても,締め切りを破れない理由が弱っているいろはを見たことだったりするあたり*5,相変わらずいろはに対して甘いです。しかも,あざといあざといいいながらもいろはが可愛いということはあっさり認めていますしね。

いろはの役割 − なぜ10.5巻はいろはす回だったのか

最終第四クウォーターに突入している『俺ガイル』。10.5巻は,表向きこそ小休止,ゆるめの短編集の体裁をしていますが,それに終始するものであるはずがありません。
そして,本編に対する10.5巻の位置づけは,「一色いろはというキャラクターを再定位すること」にあると考えられます。このことについて少し考えてみます。

7.5巻を振り返る

いろはが初めて登場したのは7.5巻。

7・7.5巻の時点では,8巻以降において,三浦・葉山を巻き込んだ展開が繰り広げられることが予想されていました。

その理由としては,7巻後の時点で,①葉山と雪乃に過去なにかがあったことが示唆されており,そこに雪乃の救済の鍵があると考えられたこと,②したがって,雪乃を掘り下げていく過程で当然に葉山のことも描かれることになること,③葉山に触れるなら,彼のことをずっと気にしている三浦さんが話に出てくるのが自然であること,④三浦さんは(お悩み相談メールを除けば)主要人物の中で唯一奉仕部に依頼をしていなかったので,三浦さんが次の依頼人になることが予想されたこと,がありました。

そんな状況のもと,7.5巻で登場した一色いろは。『俺ガイル』の登場人物の名前は神奈川県の地名からとられていることは周知の通りですが,「一色」という地名は「神奈川県三浦葉山一色」に由来するものです。


三浦さんといろはが葉山君を挟んでいます。これが一色いろはに与えられた作中での立ち位置を示していることは明らかで(あると思われま)した。
つまり,8巻以降の展開において,葉山グループ,そして,文化再編・修学旅行編を経て安定あるいは膠着してきた登場人物たちの関係を動かすための存在として準備されたキャラクターだと考えられたのです。
具体的には,いろはの行動が三浦さんを刺激し,その結果,二人の視線の先にいる葉山にスポットライトが当たり,そうしてできた影のなかに雪ノ下雪乃の過去がちらつく,という展開が予想されたのです。

8・9巻を振り返る

そのような予想は,全く見当違いというわけではありませんでしたが,いくぶんミスリードだったことが8巻以降判明していきます。

8巻

いろはは冒頭から物語に大きく絡んできます。しかし,それは三浦さん・葉山君とは直接には関係がない理由によるものでした。

最終的には,八幡は,いろはが葉山を好きなことを利用するかたちでいろはを生徒会長にさせるわけですし,それが結果として奉仕部を瓦解寸前のところまで追いやる(と同時に奉仕部が消滅することは食い止める)のですから,いろはが「物語を動かす」という役割を担ったことについては疑いようがありません。それでも,≪三浦さん→葉山←いろは≫という図式は,あまり目立ったものではありませんでした。

9巻

前半から,8巻に引き続きどころか8巻にも増して,八幡といろはが行動を共にします。こうなってくると,物語を動かすためにいろはが刺激する対象が三浦さんではないことがだんだんと分かってきます。このことを裏付けるのが,雪乃と結衣がはじめて「会議」に参加するためにコミュニティセンターに向かったときに,八幡といろはの様子を見た彼女たちの反応です。

ことここに至ると,ディスティニーでいろはが葉山に告白するという状況になっても,それが三浦さんを通して物語を動かす方向に作用する余地がありません。逆に,傷心のいろはの面倒を見る八幡とそれを見る雪乃と結衣という構図を見せつけられることになります。

そればかりか,いろはは,八幡がはじめて自分の本音を吐露したという意味でシリーズ全体の鍵となる,あの「本物」発言を聞いています。このことがいろはに大きな影響を与えたことは,その後の展開から明らかです。

8・9巻のまとめ

こうして,いろはの役割は,「葉山グループを通して奉仕部を動かすこと」ではなく,「直接に八幡あるいは奉仕部を動かすこと」であったことが分かります。

しかし,そうであるならば,葉山を介して雪乃の過去を引き出すということは実現されないことになります。第四クウォーターのメインテーマ(の少なくとも一つ)が「雪ノ下雪乃の救済」であることは明らかですから,10巻以降はいろはの出番はなくなるのではないか? という疑念が出てきました。

10巻を振り返る

読む前は,ひょっとすると一色いろはの出番はないのではないか? という疑念すらあった10巻*6。しかし,それは杞憂に終わります。

ちゃっかり奉仕部に居座り,ケーキを食べ,誕生日アピールもしていく。しかもこのときデートの約束まで取り付けるというちゃっかりぶりを発揮していたことが10.5巻で明かされます。完全に三番手です。
他方で,葉山へのアタックは諦めていないいろは。この段階では,「葉山先輩を狙っているようにみせているのは,先輩を油断させるためです」とか言い出して,結衣・雪乃を相手どって正真正銘のラブコメ展開へと流れ込んでいく可能性すらありました。いわゆる「後出しヒロイン」です。しかし,そんなベタベタな展開はタイトルが許すはずがありません。

10.5巻 − 一色いろはの再定位

では,一色いろははどんな役割を担うキャラクターなのか? 10.5巻は,残すところ2冊(と予想される)となった本編のクライマックスに先立って,この問題に答え,最終章における一色いろはの役割を示すものでした。

そしてそれは,≪奉仕部の三人を「本物」へと導く水先人≫であると考えられます。

場面描写から

手掛かりになる場面を抜き出してみましょう。

その一

一つ目は,映画館で八幡のもはや神懸かり的なフラグ回避スキルが発動した場面。デートしている時点でフラグが回避できていないという問題は別にありますが,そんな状況でもスキルを発動させてしまうところが八幡らしいです。

 聞くと,一色は何事か納得した様子でこくこく頷く。
「なるほど。そういう対応するからああなるんですね!」
 何を察したかのかはよくわからんがご理解いただけて幸いです。*7

いろはからすれば,「デートに連れ出すことはできました。楽勝じゃないですか,結衣先輩,雪ノ下先輩?」と思っていたところで,八幡のこの対応。そして納得するわけです。納得の対象は,ここに至るまでの奉仕部への潜入捜査などで判明していた,結衣・雪乃と八幡の距離が「想像していたよりも」近くない,という,いろはが読み取った事実です。

もっとも,八幡を連れ出すこと自体が難易度の高いクエストです。そこをあっさりクリアしてしまう辺りさすがの一色さん。男子を転がすのがうまい。「一色いろは被害者の会」*8の会員各位には,ご賢察の上,一色いろはの行動にご理解を賜りますようお願い申し上げます。

その二

二つ目はデートの別れ際の会話。

「とりあえず,今日は参考になりました。ありがとうございます」
 (中略)顔を上げた一色が可笑しそうにくすっと笑う。
「……先輩もちゃんと参考にしてくださいね?」
 その眼差しは優しさに溢れていて,けれど言葉の裏には少しばかりの厳しさが見え隠れする。*9

八幡が「本物」を探し当てる手伝いをしてあげるのがいろはの優しさ。「本物」探しから逃げてはいけないと釘を刺すのが彼女の厳しさ。といったところでしょうか。

その三

最後は3章のラスト,いろはが奉仕部三人の写真を撮った直後の場面。

 げんなりしていると,一色がとてとてやってきて,俺のスマホを返してくる。
「はい,先輩。……いい写真ですよ」
 そう言って,一色は少し大人びた笑みを見せた。その言葉の意味を問うような真似はしない。*10

八幡もこう言っていることですし,突っ込むのはやめておきます。

水先人・一色いろは

一色いろはのあざとさ

一色いろはは「あざとい」キャラクターとして描かれています。

しかし,彼女のあざとさはそのような性格設定に尽きるものではありません。作中における一色いろはというキャラクターの役割・存在自体があざといのです。

だいたい,シリーズ全体の折り返し後に登場した後出し三番手ヒロインで,しかも,八幡の対妹スキルを逆手にとって彼の防御を無効化できるなんてずるすぎます。
はっきりいってチートです。
結衣でも小町の助けを借りないと達成できないほどの攻略難易度なデートクエストすら,いとも簡単に達成してしまいます。ゲームバランス的に問題があるといわざるを得ません。

しかし,それが許されてしまうのが一色いろはがあざといキャラクターである所以。

一色いろはの役割

つまり,彼女はとても動かしやすいキャラクターなのです*11

とくに,主人公が対人コミュニケーションを極力回避しようとするこの作品では,主人公のATフィールドを中和できる能力を持ったいろはは,十人力の働きだって可能です。


そんな彼女に託された役割は,もちろん,物語を動かす起爆剤でした。ただ,それがどの方向に風穴を開けるものなのかは,これまでよく分かっていませんでした。

それが明らかにされたのが10.5巻だった,というわけです。

「後出しヒロイン」と「まちがったラブコメ
後出しヒロイン

後出しヒロインというのはとくに珍しくはありません。

そのヒロインが主人公に接近するという展開も,ことにハーレムものなら,よくある展開です。たとえば,くしくも一色いろはと同じく佐倉綾音が演じることになった『ニセコイ』の小野寺春*12(小野寺小咲の妹)はその好例でしょう。

まちがったラブコメ

しかし,『俺ガイル』で展開されるラブコメは間違っていなければなりません。

これまでも,一人の例外を除いては,両ヒロイン以外が八幡に単なる好意以上の感情を寄せるようになることはありませんでした(6巻の相模南は当然として,7巻の海老名姫菜,9巻の折本かおり。雪ノ下陽乃や城廻めぐりを含めてもいいでしょう)。

その例外である川崎沙希は,「主人公が無意識のうちにフラグを立てている」という点で王道展開でありながら(しかもツンデレ。なぜツインテールじゃないんでしょうか?),物語の進行上,大きく取り上げられることは決して起きえません。「王道でありながら例外,しかもストーリーの本筋に関わらない」ゆえに彼女の存在もまたラブコメとしては間違っているのです。

まちがったラブコメにおける,後出しヒロインの果たす役割

したがって,①三番手ヒロインとして結衣・雪乃の前に立ちはだかる,②正当ラブコメ戦線には参戦しない,の大きく二つの方向性のうち,①は一色いろはの進む道として取りづらいところがありました。

ところが,10巻までの時点では,どちらかといえば①に見えました。
そこで,この状況はそのまま利用することにして,表向きには①を維持しながら,実質的には②を取った上で,いろはを水先人すなわちサポート役として機能させるという選択がされたのです。

一歩引いたところから温かく見守ってくれる平塚先生,突き放してくる陽乃(ラスボス相当),身内である小町。この三人とは違う視点から八幡や奉仕部をサポートする役割が,いろはの担うものとなったのです。

そしてこの役割・機能はストーリー展開上とても重要なものですから,最終章である11・12巻に入る前に,前もって・明示的に読者に明かされたと考えられます。

余談

以上が,本文から直接に読みとれることです。
最後に少しだけ,なぜ,いろはがこういう行動をするようになったのか,について,本文から若干離れて推測してみたいと思います。

おそらくは,①八幡に接するうちに彼に惹かれるようになる→②八幡に近づくにつれ彼が大切にしようとしている「本物」の鱗片=奉仕部のことが分かってくる→③八幡からその「本物」を奪うことはできないと考えるようになる(なぜそう考えるようになったかは,いくつか解釈が考えられるところです)→④(この間少し飛躍があります。ここをどう埋めるかはあなた次第*13)→⑤八幡が「本物」に辿りつく手助けをすることを決心する→⑥とりあえず情報収集のために奉仕部に入り浸る&八幡をデートに連れ出す,といったところでしょうか。

そうすると,いろはの八幡への恋は悲恋ということになりそうです。そう考えると彼女の振る舞いもまた見え方が変わってきます。
自分が恋が叶うとしても,それでは「本物」を失う八幡が必ず傷つくことになる。そんな結末は望まない。だったら八幡が幸せになる助けをしよう......。
そう決心した末の行動だったのではないでしょうか。

この「優しさ」と「強い心」が一色いろはのもっている「素敵な何か」なのです。「あざとさ」も素敵な何かが表出したものに過ぎないのです。

さて,すでにかなり推測に推測を重ねた状態になってしまっているので,このあたりで終えることにします。いろはの恋については,また改めて,書くことができればと思います。

おわりに − アニメ2期

テレビアニメ2期も始まった『俺ガイル』。
1話OPにいろはの姿がなかったり,1・2話で7巻・修学旅行が終わりそうなハイスピードだったりするあたり,7巻は早々に終わらせて,8・9巻を時間をかけて映像化することが予想されます(2期タイトルが「続」なので,原作完結後あるいはそれにあわせて3期「完」を製作する予定なのかもしれません)。

原作の魅力を残したまま映像化するためには,独白の時間を十分にとらなければいけない。そのためには端折るところが出てきてもしかたがない。端折るなら明るすぎために作り込みづらい7巻がいい。したがって,7巻・修学旅行は手短に終わらせて,その後のエピソードに尺を十分費やす。という戦略なのでしょうか?

かりにそうだとすれば,その取組は評価できるのですが,やはり,映像表現にこだわらない限りこの作品をアニメ化する意味は薄いように思われます。方針を間違えたように思えてなりません。


そういうわけで,アニメにはあまり期待していないのですが,キャラクターに声がつくことだけはとてもうれしいです。ドラマCDでは毎回キャラクターについての新たな発見があります。2期1話も,早見さんの演じる雪乃に久しぶりに聞き惚れてしまいました。東山さんの演技も素晴らしいですし,2話以降,小町(CV悠木碧),いろは(CV佐倉綾音),折本かおり(CV戸松遥)が出てくるのも,声がついたキャラクターに触れられるという意味で楽しみです。とくに悠木さんの演技は聞いてて楽しくなります。

個人的には,アニメ化するよりも,全編をボイスドラマ化して欲しいところです。


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*1:76頁,85頁。それぞれ艦これ島風と那珂

*2:110頁。

*3:115頁。

*4:119頁。

*5:195頁。

*6:出版順では9巻との間に6.5巻を挟んでいます。6.5巻はナンバリング・作中の時系列からすれば当然ですが,7.5巻から登場のいろはの出番はありませんでした。

*7:83頁。

*8:さしずめ,会長:比企谷八幡,副会長:副会長,総務:戸部翔,といったところでしょうか

*9:123頁。

*10:218頁。

*11:もちろん,正確には,動かすために登場させられたキャラクターです

*12:アニメ公式サイトの「小野寺春」キャラクター紹介

*13:私としては,そこに失恋の夜があったのだと思います。一人涙を流し,それでも先輩の前では気丈に振る舞おうとするいろは。健気だと思いませんか?