はまらないもの

とりとめのない文章集

紙の辞書と電子辞書

先日、CASIOの電子辞書、XD-Y6500を購入した。私にとっては、はじめての電子辞書である。

使ってみて感じたことは次の記事(レビュー記事)に譲ることにして、今回は、紙の辞書と電子辞書にまつわる思い出をつづることにする。

レビュー記事はこちら。
midoth.hatenablog.jp

高校

私が高校生になった頃には(といっても、まだ10年も昔ではない)、電子辞書はすでに高校の英語・国語科教諭の承認も得ており、入学時には、「紙の辞書は必ず揃えること」というお達しとともに、推奨電子辞書の案内もあった。
私も家族に相談したが、親に「紙の辞書があるのに電子辞書も買わないといけないの?」と言われ、なるほどその通りだと思い、とりあえずしばらくは電子辞書なしで授業を受けることにした。

半年もすると、決して軽くはない紙辞書2冊(英和辞書と古語辞典)をカバンの中に入れて通学することにも慣れた(自転車通学だったためカバンを体で支える時間が短かったことには助けられた)。
1年生が終わる頃には紙辞書を引くことにも慣れ、予習時に引いた項目であれば、電子辞書にもおくれを取らない速さで引けるようになっていた。
実際のところ、毎日のように数十回も辞書を引いていると、先頭1字ごとに割り当てられている爪かけ(あ・い・う・え・お……、A・B・C……というあれ)を目安に、先頭2字くらいは見当を付けられるようになる。そうすると、ぱっと見開きを開けば、ほとんどの場合、そのページか前後1、2ページの中に目的の単語を見つけられる。ここまで熟練する頃には、手垢で黒ずみ始めた辞書に愛着を感じるようにもなっていた。
結局、ほとんどの生徒が電子辞書を持っていた中で、電子辞書を使う必要を感じなかった私は、紙の辞書だけで高校生活を最後まで過ごした。そんな変わり者はクラスにも2人くらいしかいなかったが。

大学

しかし、大学に入ると、「電子辞書が欲しい」と思う機会が現れ始めた。

理由はいくつかあるが、最も大きな理由は、辞書を使う場面の変化にあったのだろう。

高校生の頃は、英語にしろ、古文にしろ、教材となった文章を読みながら、単語の意味だけではなく文法や表現も学習してきた。
そこでは、目の前にある文章は、あくまで、英語や古文を理解するための一教材だった。文章読解の過程でさまざまな文法、表現、語彙を習得することが目的とされ、期待されていた。だから、目的とする項目を探す途中で必然的に前後の項目も目に入る紙の辞書は好ましいものだった。英語も古文も受験科目だったから、その学習に時間をかけることにも抵抗はなかった。
また、予習であれ、授業であれ、机の上に筆記具、教科書、ノート、場合によっては文法書を置いて行うのが常だったから、ここに紙の辞書が加わっても、環境にさしたる変化はなかった。

ところが、大学では状況はかなり変化することになった。
まず、古文の授業はなくなった。英語の授業はあるのだが、基本文法はおおよそ理解しているので、授業で扱う文章を読解する際に必要となるのは、単語の意味であったり、ある単語に固有の用法ということになる。読む文章も専門的なものが増えるため、未知の専門用語に出くわすことも多くなるが、そこでも単語の意味が必要になる。そうすると、ぱっと単語の意味を確認できる電子辞書は、とても便利なものに見えてくる。
また、知っているはずの単語だけど意味に自信がないとか、文脈から意味は推測できるけど確信は持てないといった場合にも、意味の確認さえできれば十分なのだから、紙の辞書よりもすばやく単語の意味を引ける電子辞書は便利だろう。
環境をとっても、高校生の頃とは異なり、英文のテキストと筆記具程度で読むことが多くなる。場合によっては、テキストは電子媒体であり、印刷しないで読むこともある。こんな環境では、紙の辞書を用いるのが億劫に感じることが多くなる。

そういうわけで、大学に入学した直後は電子辞書にかなり惹かれたのだが、結局、このときも電子辞書を買うことはなかった。

その理由は、一言でいうなら、私の専攻が語学ではなかったため、ということになろうか。
つまり、英語の授業は、週1コマか2コマくらいしかなかったから、電子辞書がないので不便だとしても、耐えられない不便はなかった(第二外国語のドイツ語では、初学者ということもあって高校の頃の英語と同じように勉強していたから、紙の辞書でまったく支障はなかった)。
また、語学が必修とされていたのは学部2年生までで、3年生以降は語学の授業そのものを取らなくなった。専攻分野に関して文献を読むこともあったが、私の専攻の分野では、学部生レベルでは外国語の文献を読む機会がほとんどなかった(その分野の中でも、一部の小分野では英語文献を読むことが求められるが、私の専攻の小分野はそうではなかった)。

アルバイトで英語を教えることもあったのだが、基本的に中学生が相手だっため辞書が必要になることはほとんどなかった。かりに辞書が必要になるとしても、準備段階で1、2項目調べれば済んだので、ここでも、電子辞書に頼るきっかけはなかった。

現在

しかし、大学を卒業した今になって、とうとう電子辞書の購入に踏み切ることになる。

きっかけは、英語ではなく、日本語だった。

というのも、私が働いている(まだ見習い中の身なので、正確には「私が働くことになる」なのだが)業界では、特定の種類の文書ではあるが、ある程度まとまった量の文章を書くことが求められるのである。
その文書は、よほどの例外でもない限り日本語で書かれることになっている。文書の出来は、仕事の評価にも直結する。求められる文章は伝えるための文章であり、それを書くためには単語の運用ひとつひとつに気を払う必要がある。
必然、国語辞書や類語辞典を引く機会も増えることになる。
そして、仕事に際して辞書を引くとなると、その回数・頻度も結構なものになり、電子辞書が欲しいと感じるようになる。

実は、最初は紙の辞書で必要なものをそろえることを考えた。
しかし、複数冊必要になるのははっきりしていたため、そろえる費用や持ち運ぶ手間を考えると、明らかに電子辞書に軍配があがらざるをえなかった。

こうして、私は、はじめての電子辞書を手にすることになったのである。


次の記事へ続く。
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