はまらないもの

とりとめのない文章集

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10』感想

昨年11月に発売された『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10』の感想です。
時機を逸した感は否めませんが,このまま書きそびれたままなのも落ち着かないので公開します。



以下,ネタバレを含む感想です。



最初に触れておくと,この作品においての文理選択とか校内でのうわさとかいうのは,人間関係を描き出すための道具・舞台装置に過ぎません。このことはシリーズを通して一貫しています。イベントの発生がむりやり感があるのは毎回のことだけど,このシリーズの魅力は別のところにあるのだから,割り切るべきなのかなと思います。

表紙は陽乃さん

なんと雪ノ下母がイラストつきで登場。ラスボスは陽乃で,雪ノ下母は影だけ出てくる存在ではないかと思っていたので,かなり意表を突かれました。しかもイラストつきですからね。10巻を含むこれまでの話の流れからして,陽乃がラスボスとしての立ち位置にあるのは動かないでしょうが,母親が今後も出てくるようなら,陽乃の動きも多少変化してくるのではないでしょうか。雪ノ下母についてはイメージだけはさんざん語られてきたので,直接登場させる必要はないようにも思っていました。しかし,こうして登場してきた以上,今後の展開になんらかの影響があると見るべきでしょう。
表紙を飾る陽乃は9巻・6.5感と出番がなかったので,久しぶりの登場。しかしながらさすがの存在感。今回はかなり意味深な発言をいくつかしていたので,もう少し読み込まないと意味はとりかねますが,だいぶ彼女の真意が表れてきたように思います。章題に含まれる人名も,9章中3章が陽乃。10巻の主人公が陽乃というわけではなかったのですが,存在感はすごく大きかったですね。

カラー口絵にいろはす

表紙は陽乃さんでしたが,カラー口絵にはいろはすが登場。SDキャラ以外では初のカラー絵ですね。しかも,体勢とか服装とかいろいろとあざとい。本編では,しれっと奉仕部に上がり込んだうえに,誕生日アピールもして,三番手としてきっちりフラグを立てていきました。
奉仕部の人間関係に刺激を与えるという役割のために動かされている感は否めませんし,もちろんそのために登場させたキャラクターではありますが,個人的には一番好きなキャラクターです。次巻こそは表紙に!
問題は,いろはすの気が八幡に向くことがあるのか?ということですね。物語進行における彼女の役割を考えれば,そういう展開は想像しづらいですが,それでも,いろはが八幡にでれるところは見てみたいかも。少なくとも葉山への想いが実ることはないですしね。傷心のあと速攻で八幡に乗り換えたらそれはそれでどうかと思うけど,「これも先輩を落とすための作戦です」とか言われたら,許しちゃいそう。

依頼人は三浦さん

(横断メールはカウントしないと,)ついに,あるいは,満を持してというべきでしょうか,三浦さんが依頼人に。三浦さんの評価は,7.5巻以降上り調子だったのですが,とうとう,女王様のイメージは壊れたように思えます。まさに等身大の女子高生とでもいうべきでしょうか。
これで主要キャラ(結衣,戸塚,材木座,葉山,相模,城廻先輩,川崎さん,海老名さん,戸部,三浦,いろは,八幡,雪乃)の依頼はほぼ一巡したので,次は誰でしょう? 2月・バレンタインイベントなら,再びいろはすの可能性大。いろはち擬似デートの可能性まである。その様子を,監視のためだとかなんとかで理由をつけて,雪乃と結衣が追いかけたり。普通のラブコメなら,こういう展開もあるでしょう。でも,この作品ではまず起きそうにない展開ですね。

人間失格を読んでいるのはだれ?:①八幡,②雪乃,③葉山,④陽乃

章の副題をみるに,誰かの独白とみるのが正解というものではなさそう。思わせぶりな表現・記述で話を進めていくのはこの作品の特徴の一つでもあるから,基本的にはどの読み方もできるようになっていると思います。
陽乃については,太宰ネタを出しているあたり,読んでいるのは間違いない。雪乃については間違いなく読んでいるはずだけど,独白の内容とはあまり一致しない。陽乃という可能性は捨てきれないまでも低く,雪乃と読むのはさすがに難しいかな。ということで,独白の語り手は,葉山であり八幡であるというのが妥当な見解ではないでしょうか。そのどちらだとしても一応は意味が通るようになっていると思います。素直に読むなら,「本を読んでいると,すっかり日は暮れていた」(12頁),「本を閉じて,ソファに倒れ込んだ」(280頁),「俺はテーブルに置いたままの文庫本に,震えそうな手を伸ばしてそっと触れる。吹きっ晒しの風に当たり続けた本は冷たくなっていて,その続きを読むのを,結末を知ってしまうのを躊躇わせた。」(341頁)といった「手記」の直後の記述から,八幡が独白の主であると考えることになります。でも,一つの記述に,表向きの意味とは異なる意味を重ねるというダブルミーニングの手法はこの作品の常套手段であるので,八幡「だけ」の独白とは限りません。葉山の独白でもありうるというわけです。別の見方としては,第一の手記は八幡,第二の手記は葉山,第三の手記は陽乃の独白である,というもの。これはなかなか説得力があります。

キャラクター毎に

八幡について

着実に変わっていることが読み取れる10巻でした。分かりやすいところでは結衣とのおでかけ。小町には「んー。なんで後退してるんだろう……。夏は二人で行ったのに……」(41頁)とか言われちゃってはいますが,それでも実際の行動を見てるとだいぶ進歩がうかがえるところです。可愛い女の子二人と親密な関係にあること自体はしっかり認識しています。もはやぼっちを名乗る資格なしとは思いますが,自分の置かれた状況を,適切に理解しようとする努力には好感が持てます。それにしても,戸塚が頼れる友達になったし,戸部とも普通に話しているし,そのうえあの葉山と対等に会話しているのだから,もはやぼっちとはいえないでしょう。
興味深かったのは,平塚先生から教職を進められるところ(222-223頁)。八幡自身は軽く流してますが,アニメや漫画の世界では八幡みたいなグダーとした先生ってよく見かける気がします。このやりとりを読んで,「なるほど,八幡みたいな奴が,やる気のなさそうな教師になるのか」と納得した次第。八幡が教師に向いてないことはないですよね。というか,あの平塚先生の評価なら間違いない。

結衣について

今回は全体的に出番が少なかった印象。とはいえ,61ページから73ページあたりにかけてのプレゼント選びのシーンは,完全にデートでしたよね。ディスティニーは今回も棚上げで,本当に実現されるかすら怪しいところではありますが,それなりに関係は進展している模様。
とくに,今後の展開との関係で楽しみだったのが,ラスト間際での,三浦さんの言葉を聞いたところのシーン。

「大変だぞ,アレの相手は」
(中略)
 三浦はしばし俺を睨んでいたが,(中略)俺への反論なのだろうか,小さな声でなにかぶつくさ言っていた。
「そういう,なに……めんどいのも含めて,さ」
 そして,くるっとターンするように振り返る。コートの裾と艶やかな金髪がふわりと舞った。
「やっぱいいって思うじゃん」
 ターンの勢いのまま身体を曲げて,少しはにかむように,にこっと笑ってそういった。
(中略)
「そっか……。それで,いいんだ。もっと簡単でよかったんだ……」
 呟く声に振り返ると,由比ヶ浜がぎゅっと,自分のコートの胸元を握りしめていた。(327-328頁)

これは結衣から見た八幡についても全く同じようにあてはまるわけです。性格は正反対でも,めんどいという点では葉山と八幡は共通していますから。この三浦さんの意見を聞いた結衣さんが,次回どのようなアプローチを見せてくれるか楽しみです。

雪乃について

6巻以降もはや見慣れた姿ですが,相変わらず凋落ぶりが著しい雪乃さん。
問題なのは,彼女のあこがれ・依存の対象が,陽乃から八幡・結衣に変わったに過ぎないという点です。国立理系にこだわらなくなったところも成長とはいいづらい。結局のところ,彼女が抱えている問題は,自分だけで生きていけない,だれかに甘えてしまう,というところにあります。ディスティニーでは八幡に「お願い」したし,10巻でも八幡や結衣に頼るシーンが見られた。たとえば,母親が登場したシーンや,初詣の帰りの電車。現状は八幡と結衣に依存しているだけ。多少ものの見方・考え方が変わったところで意味がない。
彼女自身が変わるためには,彼女が認識している世界を描き出し,その世界と現実,彼女の理想とする世界とのギャップを明らかにした上で,そのギャップに手当てを与える必要があります。そのための一番手っ取り早い方法は彼女目線での物語を展開すること。でも,この作品はそういう構成を一切取ってきていません。そうすると,次に考えられるのは,雪乃からその本心を引き出すこと。しかし誰がその役割りを担うのか? 八幡がそこまで大きく踏み込むことができるのでしょうか? このあたりの問題がこのシリーズの壁となりそうです。本編完結まであと2巻だと思われますが,この壁を乗り越えることができなければ,作品をまとめきることもできないでしょう。今回,陽乃を通じてかなり煽ってきたので,これでいて最後まとめるのを放棄することはありえなく,作者の中では終わり方は仕上がっているのだろうとは思います。いずれにせよ,このテーマを書き上げることができるかが,今後問われることになります。少なくとも,「雪乃の救済」というシリーズを通じたテーマは,現状,暗礁に乗り上げかかっているのは間違いないです。この点で少し気になるのが,今回,手記という形で八幡の一人称以外の(読み方ができる)文章が織り込まれたことです。これまでは一貫して八幡の一人称で描いてきたこのシリーズですが,ここにきてそのやり方を変えたのはなぜか。今後も八幡の一人称以外の文章が出てくるのか,気になるところです。

国際教養科の人間は留学する人が多い,という話が出ていましたが,まさか,雪乃を留学させて終わりなんてことはないですよね……。彼女はもともと帰国子女で留学経験があります。しかも,その原因に葉山が絡んでいた可能性が示唆されていますから,かりに留学することとなれば,何も解決できなかった,すなわちバッドエンドに等しいことになります。さすがにここまでの展開を踏まえると,そういったエンディングはあり得ないと思えるので,留学という選択肢は考えられないでしょう。というか考えたくない。

もともと残念系美少女だったわけですが,雪乃のポンコツっぷりは巻を追うごとにはっきりしてきています。最初の頃は,「残念さ」というのが,ある種チャームポイント的に描かれていたわけですが,最近は,ただのダメ人間にしか見えなくなってきている。学業・仕事面での能力はあるのに,言葉が辛辣で,感情表現が下手で,人付き合いになれていない,つまりコミュニケーション能力がすごく低いといのは,一番たちが悪い・どうしようもないタイプの人間ではないかと思います。だから,彼女がこのラノのキャラ部門一位,しかも美琴やアスナを抑えての一位というのは個人的には納得できない。雪ノ下雪乃というキャラクターに,それほどの魅力があるのでしょうか?
下手にキャパがあるから仕事を抱え込んで,でもコミュ力不足ゆえにうまく分散することができないから,つぶれてしまう。これは6巻で見られた雪乃さん。結局このときの描写が大きかったですね。雪乃さんの本領ともいうべきところで,結局失敗してしまい,結衣や八幡に助けてもらってなんとか乗り切ることができた。でも,それは,自分だけでは何もできないことを証明してしまったようなものなわけです。そして現に7巻以降の雪乃さん,ろくに活躍していませんよね? このあたりに雪ノ下雪乃の危うさがよく表れていると思います。
彼女の本当の姿は甘えたがり屋さんなのではないでしょうか。陽乃の姿を追いかけてきたのも,陽乃や母親に認めて欲しかったから。結衣にすがられると甘くしてしまうのも,それが雪乃にとっての「甘える」行為だから。そして八幡はというと,自分の弱いところを知った上で,それをひねくれた文脈で肯定してくれて,受け入れてくれるという神様みたいな存在。要は,今の雪乃は「結衣と八幡なしでは生きていけない体」なわけです(というか,高校1年の一年間無事にやってこれたのが不可思議でならない)。つまり,依存関係。そんなものは「本物」ではない,というのが陽乃の意見。そして,男女間のそれは,恋愛関係に限りなく近い。しかし雪乃はそのことを完全に自覚しているわけではない。仮に自覚したときに結衣との関係でつぶれてしまう危険がある。これも危うい。

葉山について

彼こそ今回の主人公といってもよいでしょう。第四クウォーターは雪ノ下家編であるわけですが,そこでの中心となる人物は,雪乃,陽乃と葉山なわけです。その導入にあたる部分として,葉山に焦点が当てられたのが,今回のお話だったわけ。
「自分は偽善者ぶっている。周りに期待されたとおりの自分を演じている。それでいいのかという問いはありえるが,自分はそれに納得している」というのが彼の考え方。持てるものの責務を果たす,というような考えなのでしょう。そのことは,マラソン大会で途中八幡にあわせて遅くなってしまったのに,それでも「……いいや,勝つさ。……それが,俺だ」(311頁)と言い,実際にそれをやってのけたあたりに(このあたりはさすがにフィクションのご都合主義感が否めませんが,そういう描かれ方を含めて,彼は「ヒーロー」なのでしょう)も,うかがえます。自分の能力に自信を持っているのです。だからこそ,周りの期待に応じた人間像を演じようと思うし,それをやりきることができる。それは雪乃がなろうとしてなれなかった姿でもある。八幡に対するアンチテーゼであると同時に,雪乃と対比させる存在でもあるのです。

川崎沙希について

今回も八幡がみごとに勘違いさせていました。でも,リアルな話,八幡が大学生になったあと一番つきあっていて違和感がないのは川崎さんではないかとも思ったり。物語でもなければ,奉仕部の面倒な関係は部活の引退か,高校卒業をきっかけに崩れてしまっておかしくない。そういう特別なつながりでもなければ,八幡と結衣,雪乃が出会う場なんてない。ところが川崎さんは少し事情が違う。川崎さんが(勘違いではあるけど)八幡に気があるということもあるし,ささいなきっかけでつきあうようになって,そのまま結婚,というのが,わりと真面目に想像ついてしまう。

小町について

公立高校の入試は3月かなと思っていたら,千葉は2月らしいです。しかも合格発表も2月。そうすると,11巻では,2月だからバレンタインネタは間違いなくあるとして,それと並行して小町の受験関係の話も進むことになりそう。小町が総武高にやってくるという話は3月,最終巻かなと思っていたけど,もっと早いかもしれません。
今回は,序盤は冬休みということもあって小町の活躍がありましたが,序盤以降は,小町に代わっていろはすがラブコメパートを動かす役割を担っていました。もともと,いろははそのために登場させたキャラクターでしょうから,11巻でも小町をあえて動かす必要はなかったりするのですが......。ただ,晴れて総武高入学が決まった小町が,次の依頼人になるという展開はあるかもしれません。

おわりに

このラノ2015作品部門一位,女性キャラ部門では雪ノ下雪乃が一位,男性キャラ部門では比企谷八幡が一位,イラストレータ部門でぽんかん⑧が一位,ということで全四部門制覇だったそうです。作品部門,男性キャラ部門は昨年に引き続き連覇,女性キャラ部門は5年間不動の首位を保ち,あのアスナでさえ勝てなかった御坂美琴を陥落させての一位です。おめでとう!

このライトノベルがすごい! 2015

このライトノベルがすごい! 2015


アニメ2期も春から放送するみたいです。わたりんのガガガ文庫新作は春頃らしいけど(その前に『クズと金貨のクオリディア』が今月下旬に発売されるみたいですね),アニメが放送している頃に11巻が出るのかな。


あと,妖怪ウォッチネタがやたらと多かった。出てくるたびに妖怪たいそうが頭の中で流れ始めました。あの曲の中毒性は異常だと思います。

ようかい体操第一

ようかい体操第一